要求:
「核兵器のない世界」に向けた国際社会の取り組みの現状、意義、問題点を明らかにし、併せて日本の核政策に対する自己の見解を述べる。
1945年8月6日午前8時15分、9日午前11時2分に米国が広島市と長崎市に原子爆弾を投下した。2度の原爆でその年のうちに21万人が亡くなった。日本は唯一の戦争被爆国となった。その日から74年近くを経った今日にも、日本は広島の原爆資料館や、8月に催された平和記念式などの形で、核の恐ろしさについて国内外で強く発信している。
2016年5月27日にオバマ米大統領が、現職としてはじめて広島の平和記念公園を訪れた。オバマ大統領は原爆死没者慰霊碑で献花した後に、「核兵器は人類が自らを破滅させる手段であり、核兵器のない世界の平和と安全保障を追求すべき」という主旨の演説を行った[1]。
ところが、「核兵器のない世界」への道では各国の足並みが揃わない。北朝鮮が2006年10月以来、数回にわたって核実験を強行した。人類が依然として核兵器の脅威の下に置かれているといえる。こうした状態が変えられないか。以下では、「核兵器のない世界」に向けた国際社会の取り組み、その意義および問題点を明らかにしてみようとする。その上で、日本の核政策のジレンマを試論する。
- 核兵器の脅威
第二次世界大戦が終わったとたんに、世界は米国とソ連を代表とする東西両陣営が対峙する冷戦時代に入った。米国とソ連は、互いを「仮想敵国」と想定し、仮想敵国と戦争になった場合では勝利を保障できるよう、両国共に勢力の拡大を競い合っていた。イギリスとアメリカが主体となった北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization, NATO)と、ワルシャワ条約に基づき、ソ連を盟主としたワルシャワ条約機構(Warsaw Pact Organization)という2つの軍事同盟が結成された。同時に、米ソ両国は、核兵器開発と宇宙開発を中心として軍備拡張の競合も続いていた。
出所:朝日新聞,http://www.asahi.com/special/nuclear_peace/change/
上図は、1945年から2013年まで、世界中に核兵器の保有量を示している。上図をみればわかるように、核兵器保有量は1986年に64,099と頂点に達した。この時に、核兵器国は米国(23,317)、ソ連(40,159)、フランス(355)、イギリス(350)、中国(224)とイスラエル(44)があった[2]。
ところが、1986年を境にして、世界中の核兵器保有量が減少する一方である。2013年になると、核兵器数は10,144まで減少した。ただ、核兵器国は北朝鮮を含めれば9ヵ国に増えた。
二、「核兵器のない世界」に向けた国際社会の取り組み
黒澤(2016)によれば、核軍縮をめぐって国際社会は、以下の4つ方面の行動がある。
第一には、アメリカとソ連(ロシア)と、核兵器を保有する2つの大国間の条約の締結である。例えば、1987年に米ソは「中距離核戦力全廃条約(Intermediate Nuclear Force Treaty, INF)」を締結し、翌年発効した。これは核兵器の削減を決めた初めての条約であり、これにより地上配備の中距離核ミサイルが欧州から撤去されることとなった。また、1991年、米ソの間で第一次の戦略兵器削減条約(START)が調印され、94年発効した。その上で、1993年には新戦略兵器削減条約(START 2)は調印され、2003年までに戦略核弾頭数の上限を3,000-3,500発に削減するなどとした。
第二には、核兵器不拡散条約(NPT)がある。NPTには1968年に62ヵ国が調印し、1970年に発効することとなった。米、英、露、中、仏の5ヵ国だけに核兵器の保有を認める条約である。(1)この5ヵ国以外に核兵器の製造や取得を禁じること、(2)核軍縮交渉に誠実に取り組むこと、(3)原子力の平和利用を認めることは、核兵器不拡散条約の3本柱である。現在、NPTによれば、米、ロ、英、仏、独、中という6ヵ国は核兵器をもつことが認められているが、ほかの国は核兵器をもつことが禁じられている。ただし、インド、イスラエル、パキスタン、北朝鮮はNPTに入っていない。その上で、5年ごとにNPT再検討会議が開催されるという体制になった。2015年にNPT再検討会議が米、イギリス、カナダの反対によって決裂してしまった。
第三には、核実験の禁止に関する包括的な条約(CTBT)がある。1996年にCTBTが国連総会で採択された。63年発効の部分的核実験禁止条約(PTBT)で対象外だった地下も含め、あらゆる核実験を禁じている。署名国は181ヵ国で、日本など148ヵ国が批准した。発効には特定の44ヵ国の批准が必要だが、米国、中国、イラン、イスラエル、北朝鮮、インド、パキスタンなど9ヵ国が未批准である[3]。
第四には、世界に非核兵器地帯を作ろうとする条約がある。
2017年に国連において核兵器禁止条約の交渉が行われ、7月7日に同条約が賛成多数で採択された(賛成122、反対1、棄権1)。同条約交渉には、核兵器国やNATO諸国等の同盟国等は参加せず、日本も交渉冒頭に出席して日本の立場を述べて以降、参加しなかった[4]。
要するに、現段階においては、北朝鮮の核・ミサイル実験を始めとして、国際的安全保障環境が悪化している。核軍縮の進め方をめぐっては、核兵器国と非核兵器国の間のみならず、核兵器の脅威に晒されている非核兵器国とそうでない非核兵器国の間でも、立場の違いが顕在化している。これは、核軍縮が着実的に進められなかった主なる要因であると考えられる。
三、日本の核政策
核兵器禁止条約をめぐって、日本政府の考えについては、日本外務省が以下のように述べている。
「日本は唯一の戦争被爆国であり、政府は、核兵器禁止条約が目指す核兵器廃絶という目標を共有している。一方、北朝鮮の核・ミサイル開発は、日本及び国際社会の平和と安定に対するこれまでにない、重大かつ差し迫った脅威である。北朝鮮のように核兵器の使用をほのめかす相手に対しては通常兵器だけでは抑止を効かせることは困難であるため、日米同盟の下で核兵器を有する米国の抑止力を維持することが必要である。」[5]
つまり、日本政府は、核軍縮に取り組む上では、人道と安全保障との2つの立場を考慮しなければならないという主張を貫いている。人道的な立場とは、核兵器が人類に壊滅的な結果をもたらすため、安全保障の問題よりも人類の存続が最も重要であり、核兵器がいかなる場合にも使用すべきではないというものである。一方、米国の「核の傘」の下に置かれた日本は、米国の安全保障の立場を擁護している。つまり、米ロは、核軍縮を行っているにもかかわらず、人道的なアプローチからではなく、戦略的安定性(strategic stability)を強化するために核兵器の保有数を減らしている。
日米同盟、米国の「核の傘」の下に置かれた日本は独自の核政策があるかと疑いを抱いている。日本は唯一の戦争被爆国として、絶えずに国際社会に核兵器のもたらした悲惨な体験を発信しており、こうした体験の継承と教育にも努めている。一方、日本は高濃縮ウランをもっている。核兵器を作る技術も有するとされている。北朝鮮の核脅威に晒されているために米国の核抑止力に頼っていることを口実にしてて、核兵器禁止条約にも参加していない。黒澤先生の指摘しているように、北朝鮮の核脅威に対応するにため、米国の核抑止力ではなく、通常抑止が十分である[6]。したがって、日本政府は、核軍縮に関する態度が、人道アプローチより、安全保障における核兵器の役割を重視し、米国政府の核兵器によって戦略的安定性(strategic stability)を実現させるという観点に寄っているのではないかと思っている。
参考文献
- 「被爆国として核の恐ろしさ伝え続けたい」,日本経済新聞,
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO33829570V00C18A8PE8000/
- 「核なき世界 模索の8年」,朝日新聞,
http://www.asahi.com/special/nuclear_peace/obama/history/
- 「世界の核兵器、これだけある」,朝日新聞,
http://www.asahi.com/special/nuclear_peace/change/
- 外務省「軍縮・不拡散・原子力の平和的利用」『外交青書』,外務省ホームページ,
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2018/html/chapter3_01_04.html#T012
- 黒澤満(2017)「核兵器禁止条約の意義と課題」『大阪女学院大学紀要』第14号,15-32ページ。
- 黒澤満(2016)「核軍縮の現状と日本の取り組み」『香川法学』第36巻第1・2号,83-103ページ。
[1] 朝日新聞,http://www.asahi.com/special/nuclear_peace/obama/history/
[2] 「世界の核兵器、これだけある」,朝日新聞,http://www.asahi.com/special/nuclear_peace/change/
[3] 朝日新聞,http://www.asahi.com/special/nuclear_peace/change/
[4] 外務省『外交青書2018』,
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2018/html/chapter3_01_04.html#T012
[5] 外務省,https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2018/html/chapter3_01_04.html#T012
[6] 黒澤(2016),92ページ。
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